その時、自然言語は破綻したのか?〜英語編〜

◇もう一つの破綻◇

本エントリは、先日書いたエントリその時、自然言語は破綻したのか?の続きみたいなものです。
 実は、先の記事の元ネタを下さった方*1が、英語においても同じように自然言語の論理的構造が破綻する(ように見える)というネタもツイートされていたのです。

英語の三段論法超有名破たん例。Nothing is better than my wife. A penny is better than nothing. Therefore, A penny is better than my wife.

というわけで、これにもちょっと説明を加えてみたいと思います。有名なネタらしいので分かっている人は分かっているネタだとは思ったのですが、もののついでということで一つ、お相手下さいますと嬉しく思います。
 先のネタに比べると、こちらは先の日本語の例ほどは難しくありません。いやまあ、英語を読むのは大変なんですけれど、理屈としては単純です。ですから、今回はそんなに長文になりません。

◇図解でわかる二つのNOTHING◇

直感的に概念を説明するのが難しいので、ペイントで下手な図を描いてみました。これでだいたい言いたいことは伝わると思うんですけれど、いかがでしょう?

(注: 画像の文字が読みにくいばあいは、画像をクリックするとマシになるかもしれません。)

◆Nothing does not always mean complete nothing, emptiness nor void.◆

*注*上の図で大体言いたいことは書いちゃったんで、「もう分かったよ」という方は結論へどうぞ。

"Nothing is better than my wife."における"nothing"(以降N1と呼ぶ)と"A penny is better than nothing."における"nothing"(以降N2と呼ぶ)は別の領域で"nothing"です。同じ〈無〉でも何が〈無〉なのかによって正反対の性質をもつということです。これは日本語でも同じで、似たような表現に「無上」と「無下」があります。*2
 N1は、〈上〉という領域における〈無〉です。日本語で言えば〈無上〉〈それ以上がない〉ということです。
 「私の妻は無上の人である」と言うために、「妻以上の存在はありません」という言い回しを採用したのがN1を含む文です。妻の上がないから妻が最上(the best)にあるのです。一方で下はあります。妻が最上にいるのですから、妻に並んで立つもの以外はすべて〈より下にある〉ことになります。
 〈無上〉にして〈有下〉、これがN1の正体です。
 一方、N2は、〈下〉という領域における〈無〉です。日本語で言えば〈無下〉〈その下がない〉ということです。0です。空集合です。
 「1ペニーとは、0ペニーよりも多くのペニーが存在していることです。なぜなら0ペニーはいかなるペニーも含まないからです。」と言っているのがN2を含む文です。無には下がないから、無こそが最下(the worst)にあたります。一方で上はあります。存在すれば上なのですから無に並んで立つもの以外は全てが上になります。
 〈無下〉にして〈有上〉、これがN2の正体です。

◇結論◇

この例でも、破綻したのは自然言語ではありません。同じ"nothing"という単語に目が眩んで、ついつい2つの"nothing"、N1とN2を混同してしまう私達の〈解釈〉がこんがらかった結果、誤った推論を正しい推論と感じてしまうのです。
 同じ語がまったく別の振る舞いをするのは、別に不思議なことじゃないでしょう。出費が〈ない〉のはことによると嬉しいかもしれませんが、金が〈ない〉のは悲しい…というのと同じことですから。

最終的に、こういうことになります。

無とは一体…うごごごご!

That was a joke. HAHA.

履歴

2012/01/21: 公開
2012/01/21: 「…先の記事の元ネタを(私が不遜にも勝手に)もらった方〜」という表記が意味わからんので、「…先の記事の元ネタを下さった方〜」へ変更し、論旨を脚注へ明記。
2012/01/23: 誤字訂正
2012/02/21: 表現の微修正(読点の変更など)


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*1:実際は私が勝手に、不遜にも引用しているだけです。(ネイルさん、もうしわけありません。)

*2:むしろ漢文じゃね?というツッコミはご勘弁下さいw